息子が自分の代わりに社長になってくれることになり、贈与枠の非課税枠(110万円)を利用して贈与していきたいと考えております。
1.ポイント
業績が顕著に伸びている中、贈与を行う際は贈与税の基礎となる株価が高額になりがちです。また、親子間で多額の贈与をすると、(いずれ相続人になる予定の)他の家族の遺留分を侵害する場合などの問題があります。後継者への株式の移転は、金額やタイミングを見計らって、気づいた時から始めましょう。
2.解説
贈与には二つの方法があります。
- 現社長には役員退職金を受け取って退任し、新たに長男を社長にする。これにより、会社の利益を押し下げ、株価を一時的に下げることができます。この株価が下がった時、長男に自社株式を贈与する方法です。
- 贈与金額が多額になるようでしたら、贈与ではなく売買により自社株式を取得させることも考えましょう。そのとき、「遺留分に関する民法の特例制度」が使えるようならば検討しましょう。
遺留分の問題を回避するために、長男とは贈与ではなく売買取引を行うということもひとつの手段となります。遺留分についての民法特例制度では、一定の要件をクリアした中小企業の後継者が、遺留分権利者全員の合意を得た上で一定の手続きを踏むことにより、
- 後継者が先代の経営者から贈与を受けた株式を、遺留分の算定の基礎となる財産に合算しない事ができる。
- 後継者が先代の経営者から贈与を受けた株式について、遺留分の算定の基礎となる財産に持ち戻すことが出来る。
とするものです。この特例を受けるための要件は、以下のとおりです。
対象法人 | 3年以上継続して事業を行っている中小企業者 |
対象となる後継者 | 先代の経営者の推定相続人(先代の経営者の兄弟姉妹及びその子を除く)であること 議決権の過半数を有し、かつ合意の対象とする株式を加えないと、議決権の過半数を確保できないこと その会社の代表であること |
手続き方法 | 遺留分権利者全員の合意を得ると同時に、合意書を作成する その合意日から1か月以内に経済産業大臣に申請して確認を受ける。 その確認日から1か月以内に家庭裁判所に申し立てをして認可を受ける。 この特例制度の施行日前に行われた贈与についても、このような手続きを踏めば適用を受けることができる。 |
合意の効力が消滅するとき | 経済産業大臣の確認が取り消されたとき 先代の経営者の生存中に後継者が死亡したとき 再婚、出産、養子縁組等により、新たな遺留分権利者が加わったとき |
なお、建設業、特に公共工事を中心に行っている会社については経営事項審査も気になり、株価対策が行えないという方も多いと思われます。経営事項審査と株価対策は、まさに対極に位置した話ですので、同地域の同業種の総合評点値(P点)を照らしあわせた上で、事業継続に問題のない範囲で純資産価格を低くすることが必要になります。