製造業では、工場内の生産ラインを移動することがあります。このときに修繕費とするか資本的支出となるかが問題になります。修繕費とすればかかった費用が全額損金になりますが、資本的支出となれば期間に分けて減価償却をしなければなりません。即ち、かかった事業年度に損金にすることができなくなります。ではどのような判断基準で両者を分けたらよいのでしょうか。
1.税務調査官はどこを見るか
資本的支出と修繕費の関係について、資本的支出は「固定資産の修理・改良等のうち、価値の増加または耐久性の増加と認められる支出」、修繕費は「固定資産の修理・改良等のうち、通常の維持管理または原状回復と認められる支出」となります。また、以下の場合には修繕費となります(法人税法基本通達7-8-3)。
- 1件当たりの修理、改良等のために要した費用の発生金額が20万円に満たない場合
- その修理、改良等がおおむね3年以内の期間を周期として行われることが既往の実績その他の事情からみて明らかである場合
上記で判断できない場合には以下のような形式基準による判定もなされます(法人税法基本通達7-8-4)。
- 1件当たりの修理等に要した金額が60万円に満たない場合
- 1件当たりの修理等のために要した金額が、修理等の対象となった固定資産の前期末における取得価額のおおむね10%相当額以下である場合
固定資産の前期末の簿価が4,000万円だったとしましょう。そして移設するために外部に委託した費用が300万円だったとすれば、この300万円については、10%相当額以下になりますから、形式基準において、修繕費としてしまっていいと考えることができる、と思ったら大間違いで、それしか費用をかけていないのであれば、その通りなのですが、社内リソースを使っていたとしましょう。そのときにこれくらいの時間とスタッフがかかったと計算をして、それが500万円かかっていたとすると、合計で800万円ですから、10%を超えてしまっています。そのために800万円が資本的支出として処理しなければならなくなるのです。
つまり、税務調査官としては、機械装置の移設費用として外部委託費用だけではなく、関連する社内費用も加味して考えることになります。
2.税務上の対応
外部委託費用300万円+社内の人件費等500万円を合計したものが機械装置の前期期末簿価と比較して10%を超えますから。これら移設費全額を資本的支出として処理します。なお、機械装置の移設直前の帳簿価額に含まれていた旧備付費(ここでは100万円と想定)は損金の額に算入します。また、減価償却費の償却限度額をここでは100万円としておきますと、留保加算処理は以下のようになります。
ですので、500万円(人件費等)+300万円(外部委託費用)―100万円(旧備付費)-100万円(減価償却費の償却限度額)=600万円
もう一つ重要な視点があって、形式基準でなく、実質的にこの移設はどうだったかを考える必要もあります。単なる配置換えであれば、全額修繕費に加えることもできます。しかしこれが集中生産を行うなど、生産能率を高めるために行ったような場合であれば、資本的支出に該当することになります。