国内企業に勤務するAさんより所有する事務所を賃借し、家賃は国内の銀行のAさんの口座に振込みしています。さて、Aさんから「会社からの転勤命令により3年間海外に勤務することになりますが、家賃の振込みは従前と同じように、自分(国内のAさん)の口座に振り込んでください」との依頼がありました。
1.ポイント
国外居住者(税法では非居住者といいます)に対して、法人が家賃等を支払う場合には、その支払金額の20.42%の税率による所得税および復興特別所得税の源泉徴収が必要となります。
2.解説
税金の考え方において、日本国内において生じた収益(所得)に対して、所得を得た人が国内居住者はもちろんのこと、非居住者も納税の義務が発生します。特に、非居住者においては、所得の把握や納税について困難が予想されることから、所得税法において「国内源泉所得」を定義して、支払者に対して源泉徴収義務を課しています。
非居住者に支払う不動産の賃料もその対象となっています。例外として、個人が本人またはその親族が居住の用に供するために借受けて、所有者である非居住者に支払う家賃については、源泉徴収の必要はありません。Aさんの場合は、物件が事務所であること、また支払者が法人であることから源泉徴収義務を免れることはできません。
なお、Aさんが事務所家賃のほかに、共益費の性格を有する管理費等を収受しているような場合には、「管理費」も家賃と同様源泉徴収の対象となるものと考えられます。
非居住者に対して支払うもので源泉徴収義務があるものに、「不動産の賃貸料」のほかに、「土地等の譲渡」の規定があります。いずれも不動産業を営む会社にとっては、発生する可能性が多いものです。「土地等」の範囲には、土地または土地の上に存する権利(借地権等)、建物およびその付属設備、構築物が含まれます。いわゆる「不動産の譲渡」の対価は対象になることにご留意ください。
なお、個人が自己またはその親族の居住の用に供するために、非居住者から土地等を購入した場合であって、その土地等の譲渡対価が1億円以下であるときには、支払いの際源泉徴収をしなくても良いという例外規定があります。