配偶者居住権は当該配偶者が死亡して子が相続する場合はどうなりますか。
1.二次相続での配偶者居住権の取り扱い
二次相続では配偶者居住権と敷地利用権のどちらも課税対象としません。配偶者居住権は配偶者の死亡によって消滅しますから、相続人が取得する相続財産としての配偶者居住権は存在しないため、相続税の課税対象となりません。
ここでのポイントは、相続財産の時価が、一次と二次相続で同じだとすると、配偶者居住権を使えば、二次相続で配偶者居住権と敷居利用権の分だけ相続財産が減少します。つまり相続税の負担が減るのです。しかも二次相続において、子供は配偶者居住権を利用しない場合と同様な形で、土地や建物の所有権を完全に獲得できるのです。
2.配偶者居住権の具体例
ここでは、以下のような例を想定してみましょう。
被相続人:85歳
相続人 :配偶者76歳で平均余命が15年。子は別居で1名
財産 :土地1億6,500万円(330平米)
建物(木造築35年)
預金4,000万円
(a) 建物を配偶者が取得し、土地は配偶者と子が共有で取得、預貯金は配偶者が相続。
(b) 配偶者居住権の活用。預貯金は配偶者が相続。
一次相続では配偶者の税額軽減の特例があって、配偶者が取得した財産は1億6千万円か財産の2分の1のどちらか多い方までは税金がかからないのですが、二次相続で課税されるのを想定して、一次相続の時点で子供にも財産の一部を相続させた方が税負担が軽くなります。
ここで配偶者居住権を用いると以下のようになります。
配偶者と子の共有で相続 |
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配偶者居住権を活用 |
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相続財産 |
配偶者(同居) |
子(別居) |
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相続財産 |
配偶者(同居) |
子 (別居) |
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一次相続 |
建物 |
500 |
0 |
一次相続 |
建物所有権 |
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0 |
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土地 |
5,907 |
10,593 |
配偶者居住権 |
500 |
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敷地所有権 |
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10,593 |
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敷地利用権 |
5,907 |
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小規模宅地等の特例 |
-4,726 |
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小規模宅地等の特例 |
-4,726 |
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預貯金 |
4,000 |
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預貯金 |
4,000 |
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合計 |
4,681 |
10,593 |
合計 |
4,681 |
10,593 |
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税額 |
|
1,333 |
税額 |
|
1,333 |
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二次相続 |
建物 |
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500 |
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二次相続 |
配偶者居住権 |
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- |
土地 |
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5,907 |
敷地利用権 |
|
- |
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小規模宅地の特例 |
|
|
小規模宅地の特例 |
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預貯金 |
|
3,000 |
預貯金 |
|
3,000 |
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合計 |
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9,407 |
合計 |
|
0 |
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税額 |
|
1,040 |
税額 |
|
0 |
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一次・二次相続の税額合計 |
2,373 |
一次・二次相続の税額合計 |
1,333 |
建物所有権:500万円(建物評価額)×(-2年[残存耐用年数]-15年[存続年数])/―2[残存耐用年数]×0.642(平均余命15年の複利原価率)=0円
残存耐用年数:33年(木造の法定耐用年数22年×1.5)-35年(築年数)=-2年
配偶者居住権=500万円(建物の評価額)-0円(建物所有権)=500万円
敷地所有権=1億6,500万円(土地の評価額)×0.642(平均余命15年の複利原価率)=1億593万円
敷地利用権=1億6,500万円(土地の評価額)-1億593万円(敷地所有権)=5,907万円
3.メリットを享受できる場合
配偶者居住権を用いる場合には、自宅の土地・建物の評価が高い人、配偶者の年齢が若い人、建築してから相当年月が経っている建物を持っている人は、メリットが大きくなると思われます。
もちろん、相続税額は同一財産であっても家族構成によって変わりますし、遺産分割の内容や小規模宅地等の特例の適用にも影響を受けます。そのため、将来にわたっての収入や支出も考えないと、相続税の正確なシミュレーションはできないのです。